学校統廃合の加速ねらう文科省「手引」
(2015年1月29日)
「手引」は少子化が進行するもとで「学校規模の適正化」と称して、学校統廃合を加速させることをねらったものです。
「手引」は「第1章 はじめに」の分部で、いま「学校規模の適正化が課題」になっているとし、その背景に「少子化の進展等の状況の変化」と「市町村における検討状況」をあげています。
つまり、少子化にともない「標準規模を大きく下回る学校が相当数存在」するといった状況の変化を強調し、「こうした小規模校には…教育指導上多くの課題が存在している」にもかかわらず、市町村では学校規模の適正化の検討が遅れている、としています。
こうした理由から「手引」は、市町村に対し、もっと主体的に学校規模の適正化を進めるように求めています。
「手引」は、次のように述べています。
国が定める標準は「特別の事情があるときはこの限りでない」とされている弾力的なものですが、今後、少子化が更に進むことが予想される中、…各設置者において、それぞれの地域の実情に応じた最適な学校教育の在り方や学校規模を主体的に検討することが求められています。
(「手引」2ページ)
学校教育法施行規則第41条では、学校の標準規模を12〜18学級と定める一方、「ただし、地域の実態その他により特別の事情のあるときは、この限りでない」と例外を認めています。
ここで「ただし書」部分を引用して、標準規模は「弾力的なもの」と断っているのは、これまでの経緯があるからです。
国は、かつて強引な学校統廃合を推進したことを反省し、1973年に無理な学校統廃合を禁止する内容の通知を出しました。
それ以降、12〜18学級はあくまで「標準」であって、「ただし書」の規定を尊重し、適正規模はそれぞれの地域の判断で決める、というスタンスで来ました。2000年代になって以降も、そのスタンスは変わっていませんでした。
町村信孝・文部科学大臣(当時)が国会で「(学校の適正規模は)基本的にはそれぞれの地域で適切に御判断をいただく。しかし、余り無理に統廃合を今進めなければならないということではない」(2001年2月27日の衆院・文部科学委員会)と明確に答えています。
それ以降も、学校の適正規模について政府は、次のように国会で答弁してきました。
- 「公立の小中学校の統合につきましては、学校を設置する市町村の判断に基づきまして、それぞれの地域の実情に応じて適切に行われることが重要」
「文部科学省としては、これまで学校の規模や通学距離の目安を示すとともに、教育の効果あるいは将来の児童生徒数の増減、住民に対する啓発等に意を用いながら、適切な学校規模という問題についてそれぞれお考えいただきたいということを申し上げている」
(2005年8月3日 衆院・文部科学委員会 銭谷眞美・文部科学省初等中等教育局長)
- 「(学校の適正規模については)学校教育法の施行規則では12学級以上18学級以下と、こういう規定があるが、これはあくまで標準」「地域がどう考えるかということは非常に大事」
(2007年11月15日 参院・文教科学委員会 渡海紀三朗・文部科学大臣)
1973年通知では「小規模学校には教職員と児童・生徒との人間的ふれあいや個別指導の面で小規模学校としての教育上の利点も考えられるので、総合的に判断した場合、なお小規模学校として存置し充実するほうが好ましい場合もあることに留意すること」と求めました。
「手引」が「少子化の進展等の状況の変化」をことさら強調するのは、教育環境を取り巻く状況が変わったから、スタンスも変える必要があると、学校統廃合推進を合理化するためのものです。
「自治体消滅」「地方消滅」を唱えて、自民党流「地方創生」へ誘導するのと同じ手法であり、その一環として学校統廃合が位置付けられていると考えられます。
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