学校統廃合推進へ新たな手引
(2015年1月29日)
文部科学省は「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」を策定し、2015年1月27日、各教育委員会に通知しました。
公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引と通知はこちら
(文部科学省のホームページにリンクしています)
今回の「手引」作成の背景には、遅々として進まない学校統廃合を加速させたい安倍政権と財務省の野望があります。同時に「地方創生」の名で公共施設の集約化・行政投資の集中をねらう政府・自民党の思惑があります。
文部科学省が「公立小中学校の適正規模・適正配置」の基準を見直すのは約60年ぶりとされています。おもなポイントは、次の点です。
- 「学校規模の適正化」として、クラス替えができるかどうかを判断基準に、小学校で6学級以下、中学校で3学級以下の学校については、速やかに統廃合の適否を検討する必要があるとしたこと。
- 「学校の適正配置」として、従来の通学距離について小学校で4q以内、中学校で6q以内という基準は引き続き妥当としつつ、スクールバスの導入などで交通手段が確保できる場合は「おおむね1時間以内」を目安とするという基準を加えたこと。
従来の学校統合の基準
従来の学校統合の基準は1956年通知で定めたもので、
- 小規模学校を統合する場合の規模は、おおむね12〜18学級を標準とすること。
- 通学距離は、小学校4q、中学校6qを最高限度とすることが適当。
というものでした。
なお、この基準にもとづき無理な学校統廃合が進められ、様々な弊害が起きたことから、1973年に学校の統合について軌道修正する通知が出されました。
そこでは、学校統合の意義及び学校の適正規模については、先の通達(1956年11月17日)に示しているところとしながら、
- 学校規模を重視する余り無理な学校統合を行い、地域住民等との間に紛争を生じたり、通学上著しい困難を招いたりすることは避けなければならない。
- 総合的に判断した場合、なお小規模学校として存置し充実するほうが好ましい場合もあることに留意すること。
- 通学距離及び通学時間の児童・生徒の心身に与える影響、児童・生徒の安全、学校の教育活動の実施への影響等を十分検討し、無理のないよう配慮すること。
- 学校の持つ地域的意義等をも考えて、十分に地域住民の理解と協力を得て行うよう努めること。
などが示されました。
今回の「手引」と従来の統合基準を比べると…
今回の「手引」を1956年の統合基準と比べると、次のような特徴・問題点があります。
- 学校規模の標準(12〜18学級)については、弾力的にとらえることが強調されてはいますが、標準を下回る規模の学校の対応を細かく定めたこと。
- 通学距離による考えだけでは実態に合わない面が出てきたとして、通学時間の観点を導入し、より遠方の学校との統合ができるように条件緩和を行ったこと。
また、今回の「手引」は、1973年通知から見れば、少子化を理由に学校統廃合推進へ再び方向転換するものです。この「手引」の公表に係る通知の発出をもって、過去の通知・手引は廃止するとされています。
1973年通知の趣旨は残っている
「手引」は基本的には学校統廃合を加速させるものですが、1973年通知で示した内容、すなわち地域住民のたたかいが勝ち取った成果を完全に葬り去ることはできませんでした。
学校規模の適正化に関する基本的な考え方の中に次のような記述があります。
学校規模の適正化や適正配置の具体的な検討については、行政が一方的に進める性格のものでないことは言うまでもありません。
各市町村においては…学校が持つ多様な機能にも留意し、学校教育の直接の受益者である児童生徒の保護者や将来の受益者である就学前の子供の保護者の声を重視しつつ、地域住民の十分な理解と協力を得るなど「地域とともにある学校づくり」の視点を踏まえた丁寧な議論を行うことが望まれます。
(「手引」3ページ)
また「手引」の位置づけの中では、次のような記述がります。
本手引の内容を機械的に適用することは適当ではなく、あくまでも各市町村における主体的な検討の参考資料として利用することが望まれます。
(「手引」5ページ)
「手引」は、基本的には学校統廃合推進へ方向転換するものですが、「手引」自身が基準の機械的適用に釘をさし、保護者や住民の意向を尊重するよう求めています。
「手引」にはこのように両面あり、住民の立場からみれば「たたかいの拠り所」とできる部分もあります。
行政当局が「手引」を「錦の御旗」に強引な学校統廃合計画を押しつけようとしてきたら、そういった部分を根拠に、住民合意で学校のあり方を議論するよう求めることが重要です。
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